今年のボジョレーヌーヴォーの出来は?記録的な乾燥、小粒のぶどうから生まれる凝縮したヴィンテージ
今年もボジョレーヌーヴォーの季節が近づいてきました。
毎年この時期になると、「今年のボジョレーはどうですか?」「今年は当たり年ですか?」と聞かれます。
2026年は、ひと言でいえば、とても特殊な年です。
生産者のシュブランさんから届いた報告には、
「1976年からこの地でワインを造ってきた両親も、これほど激しく、これほど長く続く干ばつは見たことがない」
とありました。
5月以降、異例の高温と雨不足が続き、ぶどうの粒は小さく、果汁も非常に少なくなりました。
その一方で、ぶどうそのものはきれいに実り、成熟度は高く、特に古樹(ヴィエイユ・ヴィーニュ)は厳しい環境にもよく耐えています。
シュブランさんは今年のヴィンテージを、
「凝縮感があり、太陽を感じさせ、果実味豊か」
と表現しています。
収量は非常に少なくなりますが、2026年ならではの個性を持ったボジョレーヌーヴォーになりそうです。
2026年のポイントは「暑さ」よりも「乾燥」
暑い年というだけなら、ボジョレーでもこれまで何度も経験しています。
では2026年は、過去の年と比べて実際にどんな年だったのでしょうか。
ボジョレーの県庁ヴィルフランシュ・シュル・ソーヌ市の気象データを使って、ぶどうの生育に重要な4月から8月までを見てみます。
最高気温――暑い。しかし「暑さだけ」が異常なのではない

2026年の最高気温は、4月16℃、5月19℃、6月27℃、7月29℃、8月28℃。
4月から8月まで、ほぼ一貫して直近10年の平均を上回っています。
特に6〜8月の平均は28.0℃。2016〜2025年の同じ期間の平均は約25.4℃ですから、かなり暑い夏だったことは間違いありません。
ただ、グラフを見るともう一つ重要なことが分かります。
2022年のように、7月32℃、8月31℃まで上がった年もあります。
つまり、2026年の暑さそのものが、近年まったく経験したことのない水準だったわけではありません。
今年の本当の異常さは、この暑さと雨不足が同時に長く続いたことです。
最低気温――夜もあまり冷えなかった

最低気温も4月7℃、5月10℃、6月15℃、7月17℃、8月17℃と、直近10年平均を上回る月が続きました。
最高気温ほど極端な数字ではありませんが、昼だけが暑かったのではなく、夜も比較的高い気温が続いたことが分かります。
ぶどうにとって昼と夜の温度差は大切です。
暑い日中に成熟が進んでも、夜に気温が下がれば呼吸が抑えられ、酸を保ちやすくなります。
2026年は、その夜間の涼しさも例年より少なかった。
だからこそ、今年の醸造では後で触れる「フレッシュさをどう残すか」が非常に重要になります。
降水量――数字を見ると、2026年の特殊さがはっきりする

そして、最もはっきり違いが出ているのが雨です。
4月40mm、5月102mm、6月49mm、7月46mm、8月45mm。
4〜8月の合計は282mmでした。
同じ5か月間の2016〜2025年平均は約562mm。
ほぼ半分です。
さらに、暑さが本格化した6〜8月だけを見ると、2026年は140mm。直近10年平均は約326mmです。
暑い盛りに、例年の半分にも満たない雨しか降らなかったことになります。
過去3年間だけを比べても、
2024年 4〜8月 589mm
2025年 4〜8月 446mm
2026年 4〜8月 282mm
と、今年の少雨がよく分かります。
ただし、ここは正確に見ておきたいところです。
気象観測点の数字だけを見れば、2022年のように2026年以上に雨の少なかった年もありますが、ここまで暑くなかったため、大旱ばつとはならなかったのです。
5月から高温と雨不足が続き、9月になっても状況は変わらず、9月21日の時点で10月半ばまでまとまった雨の予報さえない。
1976年からこの土地でぶどうを育ててきたシュブランさんのご両親は、
「これほど激しく、これほど長く続く干ばつは見たことがない」
と言っているのです。
気象台の数字と、実際にその土地で半世紀ぶどうを育ててきた人の経験。
両方を見ることが大切です。
今年の異常さは、単純な年間降水量の少なさだけではなく、ぶどうが水を必要とする時期に、高温と乾燥が長期間続いたことです。
とりわけ若い樹には厳しい条件でした。畑の表土がカラカラになってしまったからです。
一方、根を地中深くまで伸ばした古樹は、深い地層から水を吸い上げて、こうした環境にも比較的よく耐えてくれました。
幸いなことに、シュブランさんの畑はオーガニック栽培で、40年を超す古樹が畑の大部分を占めています。
今年のような極端な年には、この樹齢の違いが大きな意味を持ちます。
ぶどうは小粒。そして驚くほど果汁が少ない
収穫時のぶどうについて、シュブランさんはこう言っています。
ぶどうはきれいで、房もしっかり形成され、実の数も通常どおりでした。ただ、粒が小さく、果汁が非常に少なかった。
これは2026年を理解するうえで重要なポイントです。
ぶどうの実の数そのものが極端に少なかったわけではありません。
しかし一粒一粒が小さく、水分が少ない。
そのため、出来上がるワインの量は限られます。
一方で、果汁に対する果皮などの割合が相対的に高くなるため、ワインには例年とは違った凝縮感が出ます。
シュブランさんは、今年を「concentré=凝縮したヴィンテージ」と表現しています。
暑さを避け、朝6時45分から収穫
「収穫は例年より半月以上早い8月25日に始まり、作業は朝6時45分から午後1時までとしました。
暑い午後を避け、できるだけ涼しい状態のぶどうをワイナリーへ運ぶためです。
これは収穫する人たちの体調を守るためでもあります。
気温の高い年は、収穫したぶどう自体の温度も上がります。
ヌーヴォーのようにフレッシュな果実味を大切にするワインでは、畑から醸造所に入るまでのぶどうの温度も無視できません。」
朝早くから収穫するという判断にも、今年のワインをどう造るかというシュブランさんの考えが表れています。
醸造では、あえて「やさしく」
興味深いのは醸造です。
「今年のぶどうは糖分を多く含んでいます。
それだけ酵母が発酵で処理しなければならない糖も多く、最後まできちんと発酵を終えられるか、いつも以上に注意が必要です。
9月21日現在、残っている糖分は5〜20g/Lまで減っており、これだけ糖度の高かったぶどうですが、発酵は順調に進んでいます。
ただし、まだ最後まで注意深く見守る必要があります。」
そして今年、シュブランさんが意識しているのは、「やり過ぎない」ことです。
「暑く成熟度の高いヴィンテージだからこそ、抽出を強くするのではなく、できるだけ穏やかに醸造しています。
マセラシオン(果皮などを果汁と一緒に漬け込む期間)を通常より短くし、温度も低めに抑えています。」
目的は明確です。
できる限りフレッシュさを残すため。
もともと凝縮したぶどうから、さらに強く抽出する必要はありません。
むしろ2026年は、豊かな果実味を持ちながら、ボジョレーヌーヴォーらしい軽やかさやフレッシュさをどこまで残せるのか。
そこが造り手の腕の見せどころになる、極めて特殊なヴィンテージだと思います。
2026年のスタイル予想
シュブランさんは、
「凝縮感があり、太陽を感じさせ、果実味豊かなヴィンテージ」
そして、
「どちらかといえば、南の産地を思わせるタイプのワインが好きな人に喜ばれるだろう」
と話しています。
ボジョレーというと、軽やかでフレッシュな赤ワインというイメージが強いかもしれません。
2026年はそこから少し違う方向へ振れそうです。
完熟した果実、凝縮感、暖かい年ならではの豊かさ。
だから意識的にフレッシュさを残さなければ!
この二つがうまくバランスすれば、かなり面白いヌーヴォーになるでしょう。
では、2026年のボジョレーヌーヴォーは「当たり年」なのか?
毎年、ボジョレーの記事では、「今年は当たり年」という言葉が出てきます。その方が売れるからです。
僕は、当たり年かどうかというよりも、どんな特徴がある年なのかの方が重要だと思ってはいます。
2026年は確かに、非常によく熟したぶどうが収穫されています。
一方で、これまで経験したことのないような長期の干ばつでもありました。
ぶどうの粒は小さく、果汁は少なく、収量も非常に限られます。
そういう年だからこそ、ぶどうの力だけではなく、収穫のタイミングや醸造家の判断が重要になります。
現時点で確かに言えることは、
「量は非常に少ない。しかし、凝縮した果実味を持つ、2026年ならではの個性の強いヴィンテージ」
でしょう。
あとは、この濃密な果実の中にどれだけフレッシュさが残るかだけです。
それを実際のワインで確認するのが楽しみです。
古樹が支えた2026年
シュブランさんの「古い樹は耐えている」という言葉は、とても意味深い言葉です。
若いぶどうの樹ほど乾燥の影響を強く受ける一方、長い年月をかけて根を深く伸ばしてきた古樹は、この異常な干ばつの中でも耐えています。
シュブラン家では、こうした古樹が畑の大部分を占めています。
そして、その古樹がすべてオーガニックだということに大きな意味があります。
ぶどうは本来、数十メートルもの深さまで根を伸ばす力を持つ植物です。
化学農業の畑では、表面から化学肥料が撒かれるため、ぶどうの根は簡単に栄養を摂れる地表に伸び、深く伸びていきません。
つまり、深い地下水脈の恩恵には与れないのです。
一方、化学肥料を使わないオーガニックの畑では、ぶどうは水分や養分を求めて根を深く、深く伸ばしていきます。
特に40年、50年と生きてきた古樹の根は、数十メートルの深さに達しています。
今年のように表土がカラカラに乾いてしまったとき、この違いが決定的になります。
表面に水がなくなっても、地中深くまで根を張った古樹は、深い地層に残された水を吸い上げることができるからです。
毎年同じ畑から造られるワインでも、気候によって表情は変わります。
そして今年のような極端な年になるほど、畑の条件や樹齢、長年のオーガニック栽培の積み重ねが表に出てきます。
2026年のワインを飲むときには、単に「今年は暑かった」ということだけではなく、この厳しい乾燥の中で、地中深くまで根を伸ばした古樹が生き抜き、実らせたぶどうから造られたワインだということも、ぜひ考えてみてください。
最終的な答えは、実際に飲んでから
2026年は、シュブランさんたちがこれまで経験したことがないほど、長く厳しい乾燥に見舞われた年でした。
それでも古樹は耐え、小粒ながらきれいに熟したぶどうが収穫されました。
収量は少ない。
果汁も少ない。
でも、その分凝縮している。
そして醸造では、その力強さをさらに強調するのではなく、短いマセラシオンと低い温度によってフレッシュさを守ろうとしています。
非常に興味深いヴィンテージであるのは間違いありません。
果実味の強い、酸は少な目で、多くの方が美味しいと感じてくれるワイン。ただしブルゴーニュのような長期保存には向かないでしょう。
これが僕の予想です。
予想と実際のワインがどうつながったのか。
今年は特に、それを確かめるのが楽しみです。
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