シチリア、標高500mの風が育てるオーガニックワイン——ククルーロ家訪問(1・ブドウ畑編)
ブドウ畑にて――標高500mの風と、シチリア品種への挑戦
6月、夏至の日。シチリア島中央部、カルタニセッタ近郊にあるククルーロ家の農園を訪ねた。
前回訪問したのは、まだ取引を始める前の2017年。気がつけば9年ぶりである。ローマからパレルモ空港まで飛び、そこからレンタカーで山道を約100km。決して近い場所ではない。
この日は、あまりの暑さに積乱雲が大きく発達していた。
「雨が降り出す前に畑へ行こう」
ククルーロさんは、まずブドウ畑を案内してくれた。
1906年から続く、1000haの大農園

ククルーロ:この農園は1000haの広さがあります。祖父が1906年に貴族から購入したもので、私たちの家族が代々受け継いできました。
ブドウ畑は、再整備中の区画を含めて約15haです。そのほかに、アンズ、モモ、オリーブなどの果樹や、麦、干し草などの農作物も生産しています。
田村:現在、農場ではだいたい何人くらいが働いていますか。
ククルーロ:平均すると15人ほどを雇用しています。季節や作業内容によって人数は変わります。
これから、私たちの中核事業であり、生産の中心でもあるワイン部門をご案内します。
畑を見ながら、ネレッロ・マスカレーゼとフラッパートを使った新しいプロジェクトについても説明します。
25年前から続けてきたオーガニック農業
ククルーロ:このブドウ畑の区域は、すべてオーガニック栽培です。
この農場には複数の農業部門がありますが、ブドウ畑とオリーブ畑では、約25年前からオーガニック栽培を続けています。
この地域でオーガニック農法によるブドウ栽培を始めた生産者として、父はかなり早い時期の一人だったと思います。父は先駆者でした。
当時は、大手ワイナリーにブドウを販売していました。しかし買い手は、それがオーガニックブドウであることを理解せず、価値も認めていませんでした。
父が、
「これは認証を受けたオーガニックブドウです」
と説明しても、買い手からは、
「私たちにとってオーガニック認証には価値がないので、通常のブドウと同じ価格しか払わない」
と言われました。
しかし父にとって、オーガニック農業は商売上の付加価値だけではありませんでした。
健全な樹と環境を守るためのものであり、その考え方と仕事の方法を、私たちが受け継いでいます。
畑の植え替えと、生産量の拡大
ククルーロ:現在、完全に生産しているブドウ畑は約12〜13haです。残りの約2haは再整備中で、計画が完了すると約15haになります。
現在の生産量は年間約8万本です。古い畑の再整備が終われば、年間平均12万本程度に増える見込みです。
父の世代には、メルローやカベルネなどの国際品種も植えられていました。
現在はその一部を、グリッロやネロ・ダーヴォラなど、シチリアの地場品種へ植え替えています。
インツォリアをやめ、グリッロを増やした理由

田村:以前訪問したときには、インツォリアを生産されていました。
とてもおいしく、私は気に入っていたのですが、その後、生産を打ち切られました。なぜやめたのですか。
ククルーロ:グリッロは、世界各地で人気と評価を高めています。
一方、インツォリアは、品種そのものから非常によい品質のワインを造れるにもかかわらず、高い価値を持つ上質なワインとして、一般には認識されていません。
田村:非常にシチリアらしい、特別な品種ですよね。
ククルーロ:そうです。
同じ品種はトスカーナではアンソニカと呼ばれますが、インツォリアはシチリアと強く結び付いた品種です。
問題は、一部の生産者が安価なインツォリアをスーパーマーケットで販売し、品種全体の市場評価を下げてしまったことです。
私たちにとって、インツォリアを主力として残すことは、商業的に合理的ではなくなりました。
そのため、インツォリアの畑の一部をグリッロへ植え替えました。
田村:それで、グリッロの生産量が増えたのですね。
ククルーロ:はい。現在、グリッロはネロ・ダーヴォラと並ぶ、私たちの生産の中心です。
シチリア品種で造る、新しいワイン
ククルーロ:この区域には、グリッロと若いネロ・ダーヴォラがあります。
向こうには、ヴィアロッサに使う古いネロ・ダーヴォラの畑があります。
新しい白ワインのプロジェクトとして、カッリカンテを植えました。この若い樹は、あと2年ほどで、ワイン造りに使える最初の収穫を迎える予定です。
カタラットも最近植えました。新しい白ワインでは、カッリカンテとカタラットをブレンドする計画です。
わずか1haだけ残した国際品種、シラー

ククルーロ:このシラーの畑は、今年が2回目の収穫になります。
オーストラリア系のクローン、つまりシラーズ系統です。あとでワインも試飲していただきます。
私たちが今も強く可能性を信じている国際品種はシラーだけで、面積も約1haに限っています。
シチリアは、トスカーナの一部と同じように、シラーにとって興味深い土地になり得ます。
シラーにはスパイシーな個性があり、果実味を中心とする私たちのほかの赤品種とは違う魅力があります。
田村:こちらのシラーは、ほかの地域のシラーと大きく違いますか。
ククルーロ:はい、違うと思います。
フランスのシラーとは異なりますし、クローン自体はオーストラリア系ですが、典型的なオーストラリアのものとも異なります。
このクローンを試験的に導入したところ、特にスパイシーな香りの面で、非常に興味深い結果になりました。
樹も健全で、この土地によく適応しています。
この小規模なシラー以外は、基本的にシチリアの地場品種を栽培していきたいと考えています。
「1+1が4になった」新しい赤ワイン
ククルーロ:もう一つの重要なプロジェクトが、最近瓶詰めした赤ワインです。
ネレッロ・マスカレーゼとフラッパートをブレンドしています。
赤ワインの品ぞろえを多様化することが目的でした。
以前、私たちが扱うシチリアの赤の地場品種は、ネロ・ダーヴォラだけでした。
そこで、エノロゴ(杜氏)と一緒に、ほかのシチリア品種を検討しました。
ネレッロ・マスカレーゼはエトナ山麓が有名ですが、エトナだけに存在する品種ではありません。シチリアのほかの地域でも、昔から栽培されています。
そこで、この土地に植えて結果を確かめることにしました。
フラッパートは、特にシチリア南東部と結び付いた品種で、果実味とフレッシュさが魅力です。
初めてネレッロ・マスカレーゼとフラッパートをブレンドしたとき、私たちは、
「1+1は2ではなく、4になった」
と悟りました。
予想を大きく上回る相乗効果があったのです。
そこで、ネレッロ・マスカレーゼの上質なタンニンと複雑さに、フラッパートの果実味とフレッシュさを合わせた、独自のブレンドを造ることにしました。
ワインは大樽で約1年間熟成します。
エトナの多くの生産者と同じような、ネレッロ・マスカレーゼ100%のワインを造っても、私たちには意味がありません。
私たちはエトナにいるわけではありません。
自分たちの土地を表現し、よりよい結果を生む、独自のブレンドを造りたいのです。
白も、カッリカンテとカタラットのブレンドへ
ククルーロ:新しい白ワインでも、同じ考え方を採ります。
カッリカンテ100%やカタラット100%ではなく、この2品種をブレンドする予定です。
ネレッロ・マスカレーゼとフラッパートによる赤。
カッリカンテとカタラットによる白。
この二つのブレンドが、私たちの主要な新しいプロジェクトです。
標高500mの風と寒暖差

ククルーロ:ブドウ畑は標高約500mにあります。
昼と夜の気温差が、非常に大きい場所です。
昼間はとても暑いのですが、夜になると涼しくなり、風が吹きます。
風によって畑が乾燥し、ブドウ樹が健全に保たれます。カビなどの病害リスクが下がるので、硫黄や銅による処置も減らせます。
そのため、この土地ではオーガニック栽培を行いやすいのです。
また、昼夜の寒暖差は、ワインのバランスにも重要です。
昼間にブドウは糖分と凝縮感を高め、涼しい夜には酸を保ちます。
これによって、バランスのよい白ワインと、フレッシュでエレガントな、果実味のある赤ワインを造ることができます。
すべて手作業で行う畑仕事

ククルーロ:畑の作業は、すべて手作業です。
冬の剪定、春の作業、夏季剪定、いわゆるグリーン・プルーニングを行います。
現在は、樹の内側の枝葉を選別し、間引いているところです。
収穫は通常、8月末のグリッロから始まります。
次にシラー、ロゼ用のネロ・ダーヴォラ、エントリーレベルの赤に使う若いネロ・ダーヴォラ、そして最後にヴィアロッサ用の古いネロ・ダーヴォラを収穫します。
ネレッロ・マスカレーゼとフラッパートは、9月末から10月初めに収穫します。
もちろん、具体的な日程は、その年の気候によって変わります。
2023年、2024年は最大50%の減収
ククルーロ:昨年は非常に興味深く、バランスのよいヴィンテージでした。あとで試飲していただきます。
一方、2023年と2024年は、極端な暑さのため、非常に厳しい年でした。
畑によっては、生産量が約30〜50%減りました。
田村:50%もですか。
ククルーロ:はい。最大で50%です。
灌漑は、ごく限られた場所でしか使っていません。
2026年の作柄は健全
今年のブドウは、非常に健全です。
硫黄と銅による処置は、これまでにわずか2回しか行っていません。
現在、房はとても順調に生育しています。ご覧のとおり、葉の状態も非常に良好です。
このあと2日ほどかけて、房の周囲の葉を整理します。
日光と風が通り、ブドウの房がよく呼吸できるようにするためです。
この畑の収穫は9月の最終週に、すべて手作業で行います。
畑のすぐ横に醸造所がある意味

ククルーロ:醸造所は、ブドウ畑のすぐ横にあります。
収穫期には、毎日少量ずつブドウを収穫し、すぐに醸造所へ運んで圧搾し、冷却します。
ブドウのフレッシュさと、グリッロらしい個性を形づくる、ブドウそのものに由来する香りを保つためです。
すべてを非常に短時間で行うことが重要です。
収穫したばかりの新鮮なブドウを、遠くへ運ぶことなく、すぐに醸造所へ運び込むのです。
畑での話を聞いたあと、私たちはそのまま、すぐ横にある醸造所へ向かった。
次回は、自然発酵、低温での静置沈殿、セメントタンク、そして時間をかけてワインを自然に澄ませる、ククルーロさんのワイン造りを紹介したい。
■ククルーロ家のワイン
現在販売中のワインは訪問時に試飲したヴィンテージとは異なります。
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connetablie de Guyenne