シチリア、時間をかけて自然に造るワイン——ククルーロ家訪問(2・ワイン醸造編)
標高約500mのブドウ畑をひと通り案内してもらったあと、畑のすぐ横にある醸造所へと歩いて向かった。
前回の「ブドウ畑編」でククルーロさんが話していたのは、オーガニック栽培、シチリアの土着品種への植え替え、昼夜の寒暖差、そして「できるだけ健全なブドウを育てる」という考え方だった。
では、そのブドウを醸造所ではどうワインにしているのか。
話を聞いていくと、ここでも基本にあるのは同じだった。
できるだけ余計なことをせず、ブドウが持っているものをそのままワインへつなげる。
そのためには、たっぷりと「時間」が必要だった。
ブドウは弱い力で、穏やかに搾る
ククルーロ:
私たちはブドウを穏やかに圧搾します。
強く搾るのではなく、弱い圧力で搾ることによって、ブドウから品質の高い果汁を得ることができるからです。
その後、マスト(発酵前のブドウ果汁)はこの縦型タンクに入ります。
ここで行うのが「静置沈殿」です。
濾過して澄ませるのではなく、低温でそのまま置いて、濁りの原因になる固形物を自然に沈ませます。
私たちは、ブドウの品質をできるだけそのまま生かしたいので、この自然な方法を使っています。
低温で最大5〜6日置くと、固形物が底に沈みます。
そして上部の澄んだマストだけを取り出して、発酵を始めます。
白ワインのマストは2〜6℃まで冷やす
田村:
醸造工程では、かなり細かく温度を管理しているのですか。
ククルーロ:
はい。醸造のすべての段階で温度を管理しています。
通常、白ワインの発酵は15〜16℃程度です。
ただ、静置沈殿をするときはもっと低くします。
マストを澄ませるために2〜5℃くらいまで下げ、最高でも6℃です。
低温にすると、マストの中に浮いている固形物が沈みやすくなり、重力で自然に底へ落ちていきます。
最大5〜6日待って、上に残った澄んだ部分だけを取り出します。
そのマストを発酵させて、ワインにしていきます。
培養酵母を買わず、自分の畑の酵母を使う
静置沈殿を終えたマストは、いよいよ発酵へ入る。
ここでククルーロさんが説明してくれたのが、「ピエ・ド・キューヴ」だ。
ククルーロ:
私たちは培養酵母を購入して使いません。
本格的な収穫を始める3〜4日前に、まず少量のブドウを手で収穫します。だいたい500kgくらいです。
それをこの小さなタンクに入れて、自然に発酵が始まるのを待ちます。
そして畑のブドウにもともと付着している酵母が繁殖してくれるのです。この酵母を使います。
田村:
つまり、自分たちのブドウから発酵用の酒母を作るわけですね。
ククルーロ:
そうです。
たとえば、グリッロには3つ、ネロ・ダヴォラには4つの異なる区画があります。
それぞれの区画について、その畑のブドウから独自の酒母、いわゆる「ピエ・ド・キューヴ」を作り、その区画のワインの発酵に使います。
購入する培養酵母は、もともとフランスやオーストラリア、シチリア、トスカーナなど、いろいろな地域のブドウから選抜された、いわばエリートでしょう。
私たちは、そうではなく、自分たちの畑のブドウにいる酵母を使います。
ブドウから瓶詰めするまで、できるだけ外部からの物を持ち込まずに醸造したいのです。
「自然発酵の方が高品質」とは言わない
ここでククルーロさんは、自然発酵をことさらに優れた方法として語らなかった。
むしろ、その言い方が印象に残った。
ククルーロ:
私は、自然発酵で造れば、培養酵母を使う生産者より必ず高品質なワインになる、と言うつもりはありません。
でも、その土地やブドウの個性を表現するという意味では、とても重要だと思っています。
自然発酵には時間と忍耐が必要です。
小さな生産者なら待つことができます。
でも大手の工業的生産では難しい。
大規模な協同組合やワイン工場を想像してみてください。
収穫期には何百トンものブドウが次々に入ってきます。
本格的な収穫を始める3〜4日前から酒母を準備し、発酵がゆっくり始まるのを待っている余裕はありません。
だから培養酵母や、短時間で処理できる工業的な濾過設備が必要になります。
それは規模による選択です。
赤ワインは、まず低温で果皮と一緒に置く
白ワインとは異なり、赤ワインでは果皮と果汁を接触させる。
ククルーロ:
赤ワインでは、最初にコールド・マセレーション、つまり低温浸漬を行います。
果皮を含んだマストを、16〜18℃以下で2〜3日置きます。
この低い温度の間に香りを抽出します。
私たちにとって、フレッシュで、その土地の特徴をよく表すワインを造るために、とても重要な工程です。
その後、温度を24〜25℃まで上げます。
すると自然にアルコール発酵が始まります。
もちろん培養酵母など添加せずにです。
発酵が始まると、果皮が上に浮かんで「果帽」ができます。
そこで下にある液体を汲み上げ、上から果帽へかける「ルモンタージュ」を行います。
果皮がマストとしっかり接触することが重要だからです。
マセレーションの間に、果皮から色素、タンニン、ポリフェノールなどがマストへ移ります。
それがワインの色や骨格、複雑さになります。
15〜16日後に果皮と液体を分けます。

赤ワインはセメントタンクでマロラクティック発酵
果皮を取り除いた赤ワインは、セメントタンクへ移される。
ククルーロ:
赤ワインが完成するまでには、わずかな酸素交換が重要になります。
セメントタンクは、木製の樽と同じようにごくわずかな酸素を通します。
でも、木の香りや味をワインには与えません。
つまり、香味の面ではニュートラルなのです。
赤ワインでは、このあとマロラクティック発酵を行います。
ワインの酸をより穏やかなものにして、丸みがあり、柔らかく、バランスのよい味わいにするためです。
これもこのセメントタンクで行います。
若いタイプのネロ・ダーヴォラやグロッタシラーは、そのままセメントタンクで熟成します。
ヴィアロッサは、およそ半分をセメントタンク、残りの半分を大きな木樽で熟成させます。
私たちは、樽の香りが強すぎる赤ワインを造りたいとは考えていません。
もっと果実味があり、バランスとフレッシュさがあり、アルコール感や重さ、骨格が強すぎないワインを造りたいのです。

白ワインはステンレスタンクで
醸造所にはステンレスタンクもあり、白ワインにはこちらを使う。
ククルーロ:
ステンレスタンクは密閉性が高く酸素を通しません。
つまり酸素交換が少ない中で、白ワインの酸のキレが生まれます。
さらにマロラクティック発酵が起きないようにします。
白ワインには、それが非常に重要です。
赤ワインは「清澄しない」
田村:
清澄について、説明していただけますか。
ククルーロ:
赤ワインには、人為的な清澄処理、つまり清澄剤を使った処理は行いません。
赤ワインには、もっと本来の個性があり、表現力のある状態であってほしいからです。
白ワインは別です。
白ワインのマストは澄んでいなければならず、外観も非常に重要なので、清澄が必要です。
でも赤ワインでは、より自然な方法を選んでいます。
濾過も同じです。
赤ワインには目の粗いフィルターを使い、ごく軽い濾過にとどめます。
強く濾過しない方が、ワインはより表現力を保ち、「生命」を残せると考えているからです。
自然に澄むまで「6か月待つ」
ククルーロさんは、機械を使って短時間で澄ませるのではなく、時間をかける。
ククルーロ:
私たちは、ワインが自然に澄むまで長い時間をかけて待ちます。
ワインに負担をかけるような工業的な濾過システムは使いたくありません。
タンクの中で静かに置いておけば、澱が少しずつ底に沈んでいきます。
待てば、ワインは自然に澄んでいきます。
田村:
それには何日くらいかかるのですか。何か月ですか。
ククルーロ:
何か月です。
田村:
具体的には何か月ですか。
ククルーロ:
約6か月です。
田村:
自然に澄むまで、6か月も待つのですか。
ククルーロ:
はい。
外が37℃でも、醸造所内は20〜22℃
シチリアの夏は暑い。
訪問した日も外はかなりの暑さだったが、醸造所の中に入ると驚くほど涼しかった。
田村:
ここは温度管理をしていますが、夏でも何度くらいなのですか。
ククルーロ:
夏でも、内部はだいたい20℃です。上がっても22℃くらいです。
外は36℃、37℃まで上がることがありますが、中はとても涼しいです。
瓶詰めを待つ完成したワインも、約20℃で保管します。
田村:
醸造工程では、白は15〜16℃、赤は24〜25℃、瓶詰め前は20℃前後ということですね。
ククルーロ:
そうです。
工程によって必要な温度が違うので、すべて管理しています。
「コストの大部分は畑から。品質の大部分も畑から」
自然発酵、長い静置、弱い濾過。
どれも、効率だけを考えれば時間のかかる方法である。
そこで、大規模な生産者との違いについて聞いてみた。
ククルーロ:
大規模なワイン工場は大量に生産するので、1本当たりのコストを下げやすいです。
ブドウを購入するところもあれば、バルクワインを買うところもあります。
私たちの場合、コストの大部分はブドウ畑で発生します。
畑で働く人たち、農業機械、年間を通じたさまざまな作業。
コストの大部分は畑から生まれます。でも、品質の大部分もまた畑から生まれます。
私たちはもともと農業生産者です。
そして、工業的な瓶詰め業者になるのではなく、これからも農業生産者であり続けたいのです。
誰かが作った原料ぶどうや、すでに造られたワインや、途中まで醸造されたワインを買ってきて、仕上げて、濾過して、瓶詰めする方がずっと簡単です。
自分たちでブドウを育て、そのブドウだけを使ってワインを醸造することは、はるかに難しい。
でも、私たちは誇りをもって、そちらを選んでいます。

小さなタンクは、新しいワインを生み出す「実験室」
最後に案内されたのは、小型の醸造タンクが並ぶ一角だった。
ククルーロ:
ここは私たちの研究用の設備です。
小規模な実験醸造を行っています。
毎年、新しい発酵方法や醸造方法をここで試します。
たとえば、コールド・マセレーションもここで実験しました。
そして、私たちのもう一つのグリッロ、エルモーサもここから生まれました。
エルモーサは、グリッロを果皮とともに40日間醸すワインです。
最初はここで小さな規模で実験して、よい結果が出たら、大きな規模で再現します。
こうした実験は、私たちにとってとても重要です。
畑から始まり、圧搾、静置沈殿、自然発酵、浸出、発酵、そして熟成へ。
醸造所を一周してみると、ククルーロさんの造り方には一つの筋が通っていた。
機械や添加物で急いで結果を出すのではなく、温度を管理しながら、必要なところでは何日も、何か月も待つ。
ただ、その芯にあるのは醸造技術そのものではなく、やはり自分たちの畑で育てたブドウだった。
次回は、いよいよテイスティング。
グリッロ、果皮醸しのエルモーサ、ロゼ、ネロ・ダーヴォラ、ネレッロ・マスカレーゼとフラッパートの新しいブレンド、そしてシラー。
ククルーロさん自身の解説を聞きながら、現在のワインを順番に試飲します。
■ククルーロ家のワイン
現在販売中のワインは訪問時に試飲したヴィンテージとは異なります。
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connetablie de Guyenne