マニョーニ家の世代交代|さらに進化した伝統のトスカーナ

Dec 6, 2025

この記事の要点

  • トスカーナのマニョーニ家では、71歳の当主ピエトロから、世界各地で環境農業とワイン造りを学んできた息子チェザレへの世代交代が進んでいる。
  • チェザレはたい肥にチーズ工場のホエイを混ぜてミネラルと微生物を豊富にし、硫黄や銅とともに薄く撒くことで土壌とぶどうを健康に保ち、たい肥量も削減している。
  • 雑草は畝ごとに刈る場所を変えるなどして保水性と微生物環境を高め、ビオディナミと通じる作業を科学的根拠に基づいて行うことで、土壌活性とぶどうの質を一層高めている。
  • フェットゥンタ、かぼちゃのヴェッルタータ、ピチ・アッリョーネ、ストラコット・アル・キアンティなどのトスカーナ料理と、それぞれに合わせたマニョーニ家のワインはどれも完璧なマリアージュで、ワイン本来の本質はそのままに、ぶどうの質向上で味わいはいっそう美味しくなっている。

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最終更新:2025-12-06

チェザレ君:マニョーニ家の次世代

トスカーナのマニョーニ家当主のピエトロさんは僕より4歳上の71歳となり、息子・チェザレ君への世代交代の最中だ。チェザレ君の考えをじっくり聞きたかったので、勤労感謝の日の3連休を利用して、マニョーニ家を訪問した。

チェザレ君は34歳、フィレンツェ大学の農学部醸造科卒業後、スペインのバレンシア大学に留学、環境農業を学び、さらにポルトガルに移ってコルク樫栽培における化学肥料が及ぼす悪影響について研究、その後はチリのワイナリー、オーストラリアのタスマニア島のワイナリーで経験を積んだ後、2020年に戻って来て5年になる。

一旦実家に戻ると永久就職になるからと、ずっと戻らずになるべく長く、広く世界を見て歩きたかったとのことだが、2020年ということはコロナ帰国だったのかもしれない。

当初は父ピエトロさんと衝突しまくったという。それでも話し合いながら、世界で学んできた環境農業のノウハウを次々と導入、実績を上げてきている。

ぶどう畑の変化

これまで、ぶどう畑では1haあたり20トンのたい肥を撒いていたが、チェザレ君の考えで、たい肥を発酵させる際にチーズ工場で出るバクテリアに富む液体廃棄物のホエイを混ぜることを始めた。するとミネラル分を多く含んだたい肥となり、これを硫黄や銅と混ぜて薄く撒くことで土壌もぶどうも健康な状態を保てるようになり、たい肥の使用量も大幅に減らせているだけでなく、土壌の微生物量も増えた。

畑の雑草も草刈りする畝を1畝ごとにして、場所を毎年変えることにした。すると夏の乾燥時の保水と、植物がもたらす微生物環境による栄養のバランスが増し、土壌はより健康になってきた。

微生物が活性する土壌とは、環境を守り素晴らしい果実を産み出す根源であり、人間にとっての胃袋のようなもの、「人はピザだけでも生きられるが、いろいろな食べ物を摂ることで、より健康に長生きできる」と、チェザレ君は例えて語る。

土壌の活性はビオディナミーにも通じるところがあり、似たような作業を行うことにはなるが、そのアプローチは哲学的なものではなく、科学的な根拠によるものだとチェザレ君が言うと、ピエトロさんは目を細めて、大きくうなずいた。

マニョーニ家の昼食

ぶどう畑も見て、話も聞けたので館のダイニングルームで昼食。マニョーニ家のワインに合わせたトスカーナ料理を堪能した。

フェットゥンタにスパレットを合わす

焼いたパンにニンニクをこすりつけ、オリーブオイルと塩をかけたフェットゥンタ(Fettunta)。

あっという間に作れてシンプルだが、スターターになる。もちろんオリーブオイルはマニョーニ家のグリーン感の強いエクストラバージン、2025年収穫の新物。

しっかりとオリーブオイルの味が付き、力強いスパレット2024と力のバランスは合う。

ヴェッルタータ・ディ・ズッカにティンテーロを合わす

かぼちゃを茹でて潰してクリームで溶いたポタージュ、ヴェッルタータ・ディ・ズッカ(Vellutata di zucca)。

濃厚だがさっぱりしていてり、軽やかな赤ティンテーロと釣り合う。

ピチ・アッリョーネにキャンティを合わす

手打ちの太麺パスタ pici を、臭い弱めの大きなニンニクとトマトソースで和えたピチ・アッリョーネ(Pici all’aglione)。地元の名物料理だ。

ニンニクが前に出過ぎず、よい加減。優しく、果実味たっぷりのキャンティ2024が、本当によく合う。

ストラコット・アル・キアンティにキャンティ スペリオーレを合わす

牛すじ肉のキャンティワイン煮込み、ストラコット・アル・キアンティ(Stracotto al Chianti)。
自家のキャンティをふんだんに使って何時間も煮込んであるので、蕩けるよう。
キャンティスペリオーレ2021と2022を試したところ、ワインだけでフルーティーに美味しかったのは2022年で、肉にも負けていない。ところが、肉の重みによりしっくり来たのは2021年、熟成の違いとヴィンテージ特性の違いか。

スコラコットの皿が終わらないうちに、ピエトロさんが「まだ若いけど試してみて」と言いながら持ち出したのは、ボトル詰めしたばかりのキャンティリゼルヴァ2022。

最良年の10月収穫で完熟ぶどうのみをオーク樽醸造したワインで、同じ2022年とはいっても力量が別格、凄い!これからビン熟成でどこまで成長するかが楽しみだ。
ちなみにマヴィの在庫は2019年で、すでにいいビン熟成の域に到達している。

さすがに地元トスカーナの名物料理、すべての料理とパーフェクトなペアリングだった。

マニョーニ家のワインの本質はこれまで通り、しかしチェザレ君の新しい試みの導入でぶどうの質が一層高まり、味はさらに美味しくなったと感じる。

ローマではマニョーニ家のワインを買えないので、いろいろ取り混ぜて2ダース購入、車のトランクに積んだ。家で手料理と合わせて試すので、結果はまた報告したい。

この記事に関するQ&A

チェザレ君はどのような経歴を持つマニョーニ家の次世代当主ですか?
チェザレ君は34歳で、フィレンツェ大学の農学部醸造科を卒業後、スペインのバレンシア大学で環境農業を学び、ポルトガルではコルク樫栽培における化学肥料の悪影響を研究しました。その後、チリとオーストラリア・タスマニア島のワイナリーで経験を積み、2020年にマニョーニ家に戻ってきてから5年になります。
チェザレ君はぶどう畑でどのような環境農業の取り組みをしていますか?
これまで1haあたり20トン撒いていたたい肥に、チーズ工場から出るホエイを混ぜて発酵させることでミネラルと微生物を豊富にし、硫黄や銅と混ぜて薄く撒く方法を導入しました。その結果、たい肥の使用量を大幅に減らしながら土壌とぶどうを健康に保ち、土壌の微生物量も増えています。また、畑の雑草は草刈りする畝を毎年変えることで、夏の乾燥時の保水性と微生物環境を高め、土壌をより健康な状態にしています。
チェザレ君が考える「土壌の活性」の意味と、ビオディナミとの関係は?
チェザレ君は、微生物が活性する土壌は環境を守り素晴らしい果実を生み出す根源であり、人間にとっての胃袋のようなものだと捉えています。「人はピザだけでも生きられるが、いろいろな食べ物を摂ることでより健康に長生きできる」と例え、土壌にも多様な養分と微生物環境が必要だと語ります。作業自体はビオディナミに通じるところがありますが、彼のアプローチは哲学ではなく科学的な根拠に基づくものだと説明し、その言葉にピエトロさんも大きくうなずいています。
マニョーニ家の昼食では、どんな料理とワインの組み合わせを楽しみましたか?
スターターには、焼いたパンにニンニクと自家製オリーブオイルをかけたフェットゥンタに、力強いスパレット ビアンコ2024を合わせました。続いて、かぼちゃを茹でて潰しクリームで溶いたヴェッルタータ・ディ・ズッカには、濃厚さと釣り合う軽やかな赤ティンテーロ2024を。手打ち太麺のピチ・アッリョーネには、ニンニクが出過ぎないバランスに優しい果実味たっぷりのキャンティ2024がよく合いました。牛すじ肉を自家のキャンティで長時間煮込んだストラコット・アル・キアンティには、キャンティ スペリオーレ2021と2022を試し、ワイン単体ではフルーティーな2022年が美味しく、料理との相性は熟成した2021年がしっくり来るという違いも楽しみました。さらに、最良年の完熟ぶどうで造ったキャンティ リゼルヴァ2022のボトル詰めしたてを試飲し、その力量の高さに感嘆しています。
チェザレ君の取り組みで、マニョーニ家のワインはどのように変わりつつありますか?
土壌の微生物環境や保水性を高める環境農業の導入により、ぶどうそのものの質が一層高まってきました。マニョーニ家のワインの本質はこれまで通り変わりませんが、味わいはさらに美味しくなったと感じられます。今回のトスカーナ料理とのペアリングはどれもパーフェクトで、ローマでは売っていないこともあって筆者はさまざまなワインを2ダース購入し、自宅の手料理との組み合わせを試していくつもりだと締めくくられています。
田村プロフィール画像
田村 安(マヴィ代表)
著書の「オーガニックワインの本」(春秋社刊)でグルマン・クックブック・アワード日本書部門2004年ベストワインブック賞を受賞
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connetablie de Guyenne