
チェザレ君:マニョーニ家の次世代
トスカーナのマニョーニ家当主のピエトロさんは僕より4歳上の71歳となり、息子・チェザレ君への世代交代の最中だ。チェザレ君の考えをじっくり聞きたかったので、勤労感謝の日の3連休を利用して、マニョーニ家を訪問した。
チェザレ君は34歳、フィレンツェ大学の農学部醸造科卒業後、スペインのバレンシア大学に留学、環境農業を学び、さらにポルトガルに移ってコルク樫栽培における化学肥料が及ぼす悪影響について研究、その後はチリのワイナリー、オーストラリアのタスマニア島のワイナリーで経験を積んだ後、2020年に戻って来て5年になる。
一旦実家に戻ると永久就職になるからと、ずっと戻らずになるべく長く、広く世界を見て歩きたかったとのことだが、2020年ということはコロナ帰国だったのかもしれない。
当初は父ピエトロさんと衝突しまくったという。それでも話し合いながら、世界で学んできた環境農業のノウハウを次々と導入、実績を上げてきている。
ぶどう畑の変化

これまで、ぶどう畑では1haあたり20トンのたい肥を撒いていたが、チェザレ君の考えで、たい肥を発酵させる際にチーズ工場で出るバクテリアに富む液体廃棄物のホエイを混ぜることを始めた。するとミネラル分を多く含んだたい肥となり、これを硫黄や銅と混ぜて薄く撒くことで土壌もぶどうも健康な状態を保てるようになり、たい肥の使用量も大幅に減らせているだけでなく、土壌の微生物量も増えた。
畑の雑草も草刈りする畝を1畝ごとにして、場所を毎年変えることにした。すると夏の乾燥時の保水と、植物がもたらす微生物環境による栄養のバランスが増し、土壌はより健康になってきた。
微生物が活性する土壌とは、環境を守り素晴らしい果実を産み出す根源であり、人間にとっての胃袋のようなもの、「人はピザだけでも生きられるが、いろいろな食べ物を摂ることで、より健康に長生きできる」と、チェザレ君は例えて語る。
土壌の活性はビオディナミーにも通じるところがあり、似たような作業を行うことにはなるが、そのアプローチは哲学的なものではなく、科学的な根拠によるものだとチェザレ君が言うと、ピエトロさんは目を細めて、大きくうなずいた。
マニョーニ家の昼食
ぶどう畑も見て、話も聞けたので館のダイニングルームで昼食。マニョーニ家のワインに合わせたトスカーナ料理を堪能した。
フェットゥンタにスパレットを合わす
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焼いたパンにニンニクをこすりつけ、オリーブオイルと塩をかけたフェットゥンタ(Fettunta)。
あっという間に作れてシンプルだが、スターターになる。もちろんオリーブオイルはマニョーニ家のグリーン感の強いエクストラバージン、2025年収穫の新物。
しっかりとオリーブオイルの味が付き、力強いスパレット2024と力のバランスは合う。
ヴェッルタータ・ディ・ズッカにティンテーロを合わす

かぼちゃを茹でて潰してクリームで溶いたポタージュ、ヴェッルタータ・ディ・ズッカ(Vellutata di zucca)。
濃厚だがさっぱりしていてり、軽やかな赤ティンテーロと釣り合う。
ピチ・アッリョーネにキャンティを合わす

手打ちの太麺パスタ pici を、臭い弱めの大きなニンニクとトマトソースで和えたピチ・アッリョーネ(Pici all’aglione)。地元の名物料理だ。
ニンニクが前に出過ぎず、よい加減。優しく、果実味たっぷりのキャンティ2024が、本当によく合う。
ストラコット・アル・キアンティにキャンティ スペリオーレを合わす

牛すじ肉のキャンティワイン煮込み、ストラコット・アル・キアンティ(Stracotto al Chianti)。
自家のキャンティをふんだんに使って何時間も煮込んであるので、蕩けるよう。
キャンティスペリオーレ2021と2022を試したところ、ワインだけでフルーティーに美味しかったのは2022年で、肉にも負けていない。ところが、肉の重みによりしっくり来たのは2021年、熟成の違いとヴィンテージ特性の違いか。
スコラコットの皿が終わらないうちに、ピエトロさんが「まだ若いけど試してみて」と言いながら持ち出したのは、ボトル詰めしたばかりのキャンティリゼルヴァ2022。
最良年の10月収穫で完熟ぶどうのみをオーク樽醸造したワインで、同じ2022年とはいっても力量が別格、凄い!これからビン熟成でどこまで成長するかが楽しみだ。
ちなみにマヴィの在庫は2019年で、すでにいいビン熟成の域に到達している。
さすがに地元トスカーナの名物料理、すべての料理とパーフェクトなペアリングだった。
マニョーニ家のワインの本質はこれまで通り、しかしチェザレ君の新しい試みの導入でぶどうの質が一層高まり、味はさらに美味しくなったと感じる。
ローマではマニョーニ家のワインを買えないので、いろいろ取り混ぜて2ダース購入、車のトランクに積んだ。家で手料理と合わせて試すので、結果はまた報告したい。